2022年はもっぱらリモートワークで本を読む機会が減ってしまったのですが、
読んだ小説をまとめておきます。
コーヒーが冷めないうちに(川口俊和)
2018年に映画化もされた小説。
そういえば読んでなかったな、と手に取りました。
あらすじは、、、
とある喫茶店が舞台。その喫茶店のある席はコーヒーが温かい間だけ過去に戻れるという噂がある。その噂を聞きつけやってきた客はコーヒーを注文し過去に戻り過去と向き合っていく、というストーリー。
結局、過去や未来に行っても、何一つ現実は変わらないわけだから、この椅子に意味などないのでは?と都市伝説を扱う雑誌には書かれていたが、
(心ひとつで、人間はどんなつらい現実も乗り越えていけるのだから、現実は変わらなくとも、人の心が変わるのなら、この椅子にもきっと大事な意味がある・・・・・・)
にじいろガーデン(小川糸)
『ライオンのおやつ』の著者、小川糸さんの作品。
カカ、ママ、草介、宝がマチュピチュ村のゲストハウス”虹”を中心に繰り広げる家族の話。LGBTというテーマを超えて家族について考えさせられる1冊でした。
私が救うつもりだったのに、気がつけば、私の方が救われていた。
家族というものは、きっと最初から家族のわけではなく、毎日毎日、笑ったり、怒ったり、泣いたりしながら、少しずつその形が固まっていくだと思う。だから、その努力を怠ると、いくら血がつながっている家族でも、壊れて、バラバラになってしまう。
好きな人と共に年を重ねること、家族が平和に暮らすこと。
ありきたりだけれど、それ以上の贅沢があるだろうか。
私は今、一か八か、賭けたいのだ。自ら崖っぷちに立って、自分がどれだけ踏ん張れるか、試したいのだ。目の前の大きな山を、自分の力で真正面から越えることこそ意味がある。宙ぶらりんなクラゲ的生き方は、きっぱり卒業したかった。
そう、いろんな色。世界が全て同じ一色の色だったら、つまらないじゃない。でも、どんなに数が少なくても、ちょっとそこに色彩があるだけで、世界がグッとキレイに見えるでしょう?それと一緒よ。
ラーゲリより愛を込めて(辺見じゅん)
2022年12月公開された映画の原作。
映画が話題になっていたので手に取りました。
第二次世界大戦後にシベリアに抑留された日本人捕虜たちは厳しい環境の中でも帰国を願いながら生活を送ります。中でも主人公山本は帰国を諦めず、挫けそうになる周りを励ましながらその日を待ちます。わかっていてもラストでは思わず涙が出ました。
映画用に原作『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』を小説化したものなので、読みやすい1冊でした。今度は原作も読みたい。
人間を、「捕虜」という扱いやすいものに変えようという圧倒的な暴力の中で、ずっと人間であり続けた人。
生きてるだけじゃ駄目なんだ。ただ生きてるだけじゃ。それは生きていないのと同じなんだ。俺は卑怯者をやめる。山本さんのように生きるんだ。
家族でも、恋人でも、友人でも、会いたい時に会えるというのは、決して当たり前のことではない。明日もまた一緒に笑っていられるかなんて誰にもわからない。だから、大切に記憶にとどめておくのだ。誰にも奪われない隠し場所に、大切に大切にしまっておく。
傲慢と善良(辻村深月)
久々に辻村深月さんの小説が読みたくなり、2019年に発表された傲慢と善良を読みました。
主人公西澤架が婚約者である坂庭真実の失踪の真相を辿るストーリー。
ミステリーかと思えば、婚活における傲慢と善良について書かれた小説で同年代の人が読んだらかなりグサッと心に刺さるかも・・・と思います。(西澤架は39歳、坂庭真実は35歳。私も同年代なのでなんともいえない気持ちになりました。)
ミステリー要素を楽しみたい人だけではなく、架や真実と同年代の人や、
婚活中の人にはある意味、おすすめの1冊。
あれだけ趣味や仕事に費やす時間を尊く思えていたはずだったのに、この先いつまでこの調子で生きていくのかと思うと、一人きりで過ごす残りの人生がひどく長いものに思えた。その年月を、このまま耐えられると思えなかった。無理矢理にでもいいから、誰かに束縛や制約をされたい。そういう煩わしかったはずのものが、無性に懐かしく、欲しくなっていた。
現代の日本は、目に見える身分差別はもうないですけれど、一人一人が自分の価値観に重きを置きすぎていて、皆さん傲慢です。その一方で、善良に生きている人ほど、親の言いつけを守り、誰かに決めてもらうことが多すぎて”自分がない“ということになってしまう。傲慢さと善良さが、矛盾なく同じ人の中に存在してしまう、不思議な時代なのだと思います。
親に頼ってきた娘の自立が、次の依存先を探すことなんだとしても。
親が、子の結婚を焦るのは、自分の代わりの次の依存先を見つけてやろうとしている行為なんだとしても。それの何がいけないのか、と開き直れるくらいには、気持ちが強くなった。
母性(湊かなえ)
戸田恵梨香さんのエッセーを読んでから気になっていた1冊。
母性をテーマに、ある母娘のそれぞれから見た心情(母の手記、娘の回想)が交互に書かれています。
読み進めていくと暗い気持ちになってしまうのですが、最後まで読み進めると、その展開、そして途中に挟まれる教師の会話に気づいた時に救われました。
親とその親の関係が、必ずしも自分の子供との関係に合っているとは限らない。
ミステリー性もある1冊です。今度映画も見てみようかな。
子どもを産んだ女が全員、母親になれるわけではありません。母性なんて女なら誰にでも備わっているものじゃないし、備わっていなくても、子どもは産めるんです。
子どもが生まれてからしばらくして、母性が芽生える人もいるはずです。逆に、母性を持ち合わせているにもかかわらず、誰かの娘でいたい、庇護される立場でありたい、と強く願うことにより、無意識のうちに内なる母性を排除してしまう女性もいるんです